サイバーパンクコラム

第二回「サイバーパンクとは」

 
  サイバーパンクとはなんぞや!! ということをジャンルの定義から語ると虎の尾を踏んでしまうような気もするのであくまでざっくりと、自己解釈を交えたサイバーパンクになりますが、大まかに言うと「攻殻機動隊」がサイバーパンク!! と言えますね。  
 

「攻殻機動隊」は日本のサイバーパンクの金字塔的作品ですね。サイバーパンクを知らない人が観ても面白いし、サイバーパンクと知った上で観ても面白い作品です。

コンピュータと人間が有線で接続され、人間がネットにダイレクトに干渉できる――サイバーパンクの典型的なイメージはこんな感じで、もともとはウィリアムギブスン80年代に書いた「ニューロマンサー」で始めたガジェットで先行作の短編集「クローム襲撃」でもやっており、この中のエピソード「記憶屋ジョニィ」は主演キアヌリーブスで「JM」というタイトルで映画化もされました。  
 

脳に記録装置を埋め込み、それを利用した運び屋の話ですね。
コンピュータと人間の直接的な接続の描写はサイバーパンクが生まれた時に既に完成していました。

しかし、サイバーパンクの定義は人間とコンピュータの繋がりか? というと必ずしもそうではなくて、サイバーパンクの重要人物であるブルーススターリングはそういったガジェットのない退廃的な世界観のサイバーパンクを書いています。   
 

当時の夢物語的な未来像に対するパンク=反骨、反発として退廃的な未来を描いたわけですね。
サイバーパンクって、サイバー=SF的要素が先行して、そこばかり評価されがちですが、パンク=反社会的、批判的、反発あってのジャンルだと思います。
「攻殻機動隊」や冲方先生のサイバーパンク作品=「シュピーゲルシリーズ」では現代における様々な問題――核や少子高齢化、格差社会や人種問題などをメタ的でリアルな問題提起として描いています。

社会が円熟していくに連れて生じる諸問題に対する問題提起ですね。  
 

 これはサイバーパンクが生まれた当時はセオリーに対する反発=夢物語的な未来像の反対である退廃的な未来像で表現されていました。
それが転じて、社会に対する批判、問題提起的な要素に変化したと。
それと相まって21世紀に入ってからの作品は人と機会が密接に繋がった未来でありながら、現代的な生活様式を残した完全な未来ではない未来ってイメージが強いですね。

「完全な未来ではない未来」――いいですねそれ!!
これはサイバーパンク自体が時代の流れで変化したというか、現実世界がサイバーパンク化し始め、80年代に思い描いていた夢物語――個人が情報端末と接続し、生活にネットが浸透した世界観に現実が近づき、「攻殻機動隊 S.A.C」のような世界観に変化したのかなと。

 
 

30年近く前に生まれたジャンルですが、当時と今では定義が異なりますね。
変化し続けるジャンルと言えますね。

サイバーパンクは80年代に発祥した言葉/ジャンルで、当時はウィリアムギブスン/ブルーススターリングを中心に活発に執筆されていました。
しかし、今では知名度の低い言葉なのかなと思う時があります。
コミケでサイバーパンク作品ですと説明しても、反応がイマイチでパッとしない。

 
   そこでコラムにして広めようと思い立ったわけです。
サイバーパンクはこんな感じ!! と色々語りましたが、言葉で説明するより、実際に作品を紹介した方が分かりやすいですね。  
  既に作品名が度々登場していますが、それ以外にもサイバーパンク作品を何作か魅力たっぷりに紹介していきます。
     
  〜オススメのサイバーパンク作品!!〜  
ぼくのオススメはなんといっても「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」のシリーズ一発目。これが全てと言っても過言じゃないです。  
 

 やはり「攻殻機動隊」は外せませんね。
サイバーパンクを知りたければまずはこれを観ろ!!

素晴らし過ぎてここが良いとか、ここがオススメとか、恐れ多くて言えないくらいの作品です。  
 

サイバーパンクとしての、人間×機械/パンク=社会に対するメッセージ性はもちろん素晴らしいのですが、キャラクターの魅力も長年愛される要素だと思いますね。

サイバーパンクというジャンルは世界観などが複雑で難解ですが、そこにキャラクター性を足すことによって一般にも受け入れられる内容になったと。

「ニューロマンサー」から始まったサイバーパンクの世界観を漫画で表現し、一般向けにしたのが「攻殻機動隊」で押井監督により「ゴーストインザシェル」として映画化され、世界的に注目されました。
テレビシリーズの「S.A.C」は「ゴーストインザシェル」とは別シリーズで刑事モノのドラマ構成をしているので、キャラクター性に加え、エンタメ性にも優れ、観始めると止まりません。

 
  テレビシリーズ一期の中心となる笑い男事件のエピソードはとてもすばらしいので、もう四の五の言わず、観ろ!! とにかく観ろ!!

サイバーパンクのパンクには反体制という意味も含まれていると解釈しています。
「ニューロマンサー」の主人公も反体制というか、ハッカーの立場の人間です。
「攻殻機動隊」は体制側の組織ですが、反体制的な要素もあり、笑い男事件ではハッカーが活躍し、パンク的と言えます。

 
 

「攻殻機動隊」はサイバーパンクの元祖である「ニューロマンサー」の血を受け継ぐ正統派サイバーパンクですね。
「攻殻機動隊」の主人公達は公安九課と呼ばれる組織に属し、必要と判断されればどんな事件にも介入し、一部の人間には煙たがられていますが、己の正義を貫く組織なんです。
刑事モノの熱さ+SFの重厚さ+社会性のリアリティと三拍子そろっています。
笑い男事件という一見して可笑しな名前の事件ですが、本質はとてもパンクです。

アークさんのオススメはどうでしょうか。

 
  自分はあえて「ブレードランナー」を薦めます。
渋いところ来ましたね!!  
  「ブレードランナー」自体は「ニューロマンサー」よりも前の作品でサイバーパンクというジャンルが確立した後、世界観の類似性からサイバーパンクのさきがけ的作品と呼ばれるようになりました。
「ニューロマンサー」を書いている途中のギブスンが「ブレードランナー」を観て「あかん! これわしの小説と同じや!」と衝撃を受け、映画館を飛びだしたなんて逸話があります。  
  その逸話は始めて聞きましたww
退廃した未来像のヴィジュアルも実に素晴らしいですね。  
 

近未来的な建造物はあるが、路地の寂れた雰囲気や昔ながらの屋台があるヴィジョンは初めて観た時、衝撃を受けました。
こんな未来像があるのか!! って。

屋台のシーンで有名な台詞=「二つで十分ですよ」はうどんじゃなくてエビ天のことを指しているとか。語り出したら止まりません。  
 

作中で、人とレプリカントと呼ばれる人造人間の対立が描かれ、「機械の心」の描写が実に秀逸に表現されています。
ふーさんの次のオススメは?

前後しちゃいますが、小説「ニューロマンサー」ですね。  
   実はまだ読んでいないんですよ、自分。

サイバーパンクの古典的基礎教養なのが「ニューロマンサー」+「ブレードランナー」になると思います。
なので「ニューロマンサー」を紹介しなかったら片手落ちかなと。
ただし、独特の文体による翻訳小説なので、読むには少し大変かもしれません。

 
 

読むと歯ごたえがあると以前仰っていましたね。

冒頭文の「巷の空は空きチャンネルに合わせたテレビの色だった」は有名な一文です。
多くの日本人は、当時のアナログテレビのノイズ画面を思い浮かべ、かっこいい未来だ! と想像したそうですが、実はアメリカでは空きチャンネルがブルースクリーンだった、という小ネタがあります。

 
  年代ネタは当時の社会背景を象徴する面もありますね。デジタル化した現在では空きチャンネルは真っ黒ですね。
古典を押さえたければ「ニューロマンサー」+「ブレードランナー」を、スタンダードを攻めたければ「攻殻機動隊」をオススメします。  
  「ニューロマンサー」と言えば、先に書いた映画「JM」と同じ作者ですね。

そうです!! 
「JM」は「ニューロマンサー」に先駆けて出版された短編集「クローム襲撃」の中のエピソードの映画化で、世界観は一緒です。読みやすさで言えば「クローム襲撃」なので、こちらの方がオススメかもしれません。
ちなみに「攻殻機動隊」の素子の原型みたいなのが「ニューロマンサー」や「クローム襲撃」に出てくるモリィと言われています。

 
  キアヌリーブス主演で、北野武も出演する俳優的にもなかなか面白い作品ですね。
サイボーグイルカが登場しますが、これはとある作品を連想させますね。  
 

 冲方丁の「マルドゥックスクランブル」のトゥイードルディムですねww
「マルドゥックシリーズ」も「攻殻機動隊」よりは「JM」や「ブレードランナー」よりの作品ですね

退廃した世界観は「ブレードランナー」に通ずる点がありますね。  
  「マルドゥックスクランブル」は劇場アニメ化もされ、主人公=バロットは三部作全てで全裸を晒しました。あれはなかなかよかt(ry

ヴィジュアルは大切ですね!!
アークさんの次のオススメは?

 
 

 冲方先生の名前が出てきたので「シュピーゲルシリーズ」に触れましょうか。
通称――ストパンの皮を被った攻殻機動隊と比喩される作品ですww

それは初耳ww  
  主人公達は未成年の少女で、ビジュアルとキャラ設定はラノベでもよくある感じなのですが、その過去や隠された悩みや葛藤はラノベ読者を尽く鬱にするほど重く、陰湿極まりないものばかりです。
一巻から主人公達の過去についてふれていますが、どれもボディブローのように響いてきます。  
 

個人的に陽炎の過去が一番効きました・・・。
また、「攻殻機動隊」より重い社会問題=人種差別/宗教問題/障害者差別に触れ、重いシナリオ展開になっています。
そして、登場人物達が成熟した大人の「攻殻機動隊」と違い、主人公達はまだまだ未熟な未成年の少女で、自分一人では挫けてしまう脆い面を持ち、仲間との助け合いや大人の姿を観て成長していく過程はラノベの熱い展開のそれで、重い内容と相まって鳥肌モノです。

なるほど、ストパンなのはズボンとかそういうことではないんですね?  
 

これが、外見もストパンなんですよね。
主人公達は特攻児童と呼ばれ、身体の一部を機械化して戦いますが、下半身はスカートかパンツ姿で。
普段は広告活動という建前の元、児童ポルノよろしくの格好で広告活動に従事しているんだから「攻殻機動隊」のようなエンタメ性もばっちりです。

イラストもフカミネさん=ストパンの原画担当じゃないですか!!
これはアニメ化に期待ですね!! まさにストパンだ。

 
 

 アニメ化は待ち遠しいですね。
冲方先生といえば「攻殻機動隊」の最新作で脚本を担当されますね。

「攻殻機動隊 ARISE」ですね!!

 
  キャストが変わってしまったのが残念で、更にサイトーさんの外見も ど う し て あ あ な っ た ですが、期待は出来る作品だと思います。

PVもカッコいいし、どんな作品になるか楽しみですね!!

 
  大体、これだと思えるサイバーパンク作品は出しましたが、コアな作品にも触れてみますか。

コアかと言われると微妙ですが「電脳コイル」はまさに現代のサイバーパンクだと思います。
サイバーパンクは今まで語ってきた世界観がステロタイプになって20年くらい進展がなかった訳ですが、iphoneアプリなんかで有名になった、いわゆるARを世界観の中心に持って来たアニメです。
人間とネットは有線で結ばなくても、こういう形で繋がれるんだ
、という未来像を提示してくれて、すごく新しかったです。

 
 

「電脳コイル」はちらっと観ただけで、当時はサイバーパンクなんて知らなかったし、絵も好みじゃなかったからスルーしていましたが、これはいま一度観る必要がありそうです。
かつて夢物語的なSFに待ったをかけたように、サイバーパンクのステロタイプに反発し、新たな可能性を見出した作品ですね。 

ぼく自身もそのステロタイプにパンクする気持ちでソラピヨを作りました。
ですので世界観は古典的なサイバーパンクから外れてしまいますが、いま現在、サイバーパンクって何? と考えた時、「人間と何かしらのデバイスでネットと接続する世界観」というような認識がぼんやりと共有されている印象があります。
アークさんのコアなオススメは?

 
  自分は「ベクシル 2077日本鎖国」ですね。
不勉強ゆえ初めて知りました。  
 

サイバーパンクか? と言われると微妙な立ち位置の作品ですが、世界観や中盤に登場する街並みはサイバーパンクのそれです。
近未来の世界で圧倒的な科学力を持つ日本は鎖国を宣言し、電磁シールドで国土を覆い、他国からの干渉を一切受けなくなった。
その日本に侵入を試みるアメリカの特殊部隊隊員の一人が主人公=ベクシルで部隊は日本に侵入するも目撃したのは荒野だけが広がる日本だったんです。
あまりネタバレになるといけないので核心部分は語れませんが、過去のサイバーパンク作品を取り入れながら、独自の世界観を持つフルCG映画です。

参加しているアーティストがテクノ勢じゃないですか!!
カールクレイヴ、アンダーワールド、プロデイジー、ブンブンサテライツ、DJシャドウ・・・音楽を想像しただけで映画の雰囲気が伝わってきます!!
個人的にテクノとサイバーパンクの親和性はとても高いと感じています!!

 
 

ふーさんのテクノ愛も熱いです!!
「電脳コイル」同様、新たな可能性を感させる作品です。

興味をそそられます。  
  軽くではありますが、結構な数の作品を紹介しましたね。
ぼく自身、とっても有意義な時間になりましたww  
 

ふーさんのサイバーパンク+テクノ愛は凄まじいですww
まだまだ世の中にはサイバーパンク作品は数多くありますが、このジャンルは口で説明するのがすごく難しい。
でも、なんとなく魅力は伝わったはずだ。
少しでも興味が出た方はサイバーパンク作品に触れてみてほしい。

是非、観て、触れて、感じてくれたまえ!!  
  そしていつの日か、サイバーパンク作品について熱く語り合おうじゃないか!!
次はお互いのサイバーパンク作品について触れてみようではないか!!  
 

 

第二回「サイバーパンクとは」 終

 

 
 

 

第三回「お互いのサイバーパンクについて」4月下旬公開予定

 

 

 

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