ひとしきり泣いたソラは身体を放し、自分を助けてくれた女性の顔を見上げた。
火の点いていない煙草と口角の上がった口は凶暴さと頼もしさを現し、前髪の隙間から覗く紅い双眸は畏怖と尊敬をソラに与えた。
「助けてくれて、ありがとうございます。貴女は?」
「私はシュガー。SMBに所属する一介の兵士さ」
「シュガー……さん」
ピヨちゃんが事務所で話してくれた影の組織に属する兵士が、ソラの目の前に毅然と立っていた。
「さぁ、此処から逃げるぞ、安全な場所までな」
シュガーがソラの軽い身体を抱き上げ用具庫から出た瞬間、ブラックから無線通信。
『シュガー、緊急事態よ。そのビルに二十体のパワードスーツが集まっているわ』
険しくなるシュガーの表情/危険を察知し、怯えるソラ。
『二十体だ!? このビルに何かあるのか?』
『貴女よ』
『……なに?』
『この新宿爆破テロの目的は私達SMBだったよ』
少数ながらもテロ制圧にもっとも貢献しているSMBはテロリスト達にとって邪魔な存在/特に三人の殲滅特化兵は損害を受けても殺しておきたい強大な戦力。
シュガー達は新宿に赴いた時点で監視され、シュガーの行動は敵に絶好の機会を与えてしまった。
本来、局地的な爆破テロが新宿全域の広範囲に渡って発生したのはSMB戦力の分散であり、爆破の被害はおまけみたいなものだった。
『私とミルクも同じ数のパワードスーツから攻撃を受けているわ。紅咲副隊長達と応戦しているけど、そっちに手を回せる余裕はないわ』
『つまりあれか、私がそっちに合流するか、私だけで二十体全部倒せってことか?』
腕に抱いたソラの存在が急に重く感じられた。一人なら戦いきる自信はあった。だが今は守るべき存在が傍らにいる。
かつてない緊張に全身が強張り、ソラにもそれが伝わった。
「あの、なにかあったんですか?」
「心配すんな、私が守ってやるよ。嬢ちゃん、名前は?」
「……ソラです」
「ソラか、いい名だ」
シュガーはソラを安心させるためにニッと豪快に笑い、ブラックにもう一度無線通信。
『ブラック、このビルに他に生存者は?』
『いないわ。パワードスーツは五体がビルを包囲し、残り十五体が三階まで上っているわ』
『任せな、私がポンコツどもに負けるかよ』
そっとソラを下ろし、不安を和らげるように頭を優しく撫でた。
「すまんな。これからポンコツ野郎共の相手をしないといけない。もう少しだけ此処に隠れていてくれ。大丈夫、すぐに迎えに来るさ」
恐怖が湧き上がる/一人にされるからではない。シュガーが一人で無謀な戦いに挑もうとしているのが怖かった。
「駄目です、無茶です。私に構わず逃げて下さい」
身体を震わせ、涙声のソラにシュガーは困った表情を浮かべ、ふと妙案を思いつく。
「私が此処に来たのはSMBのマザーサーバーがハッキングされ、救難信号が転送されたからだ。信じられないが、ソラがやったんだろ?」
唐突な質問に困惑するソラは首を横に振り、胸の携帯電話を掲げた。
首を傾げるシュガーの前にひよこの立体映像が映し出された。
「ハッキングしたのは僕さ。おっと自己紹介が遅れたね、僕はヤエガキ・スペイシー・ピヨちゃん。気軽にピヨちゃんと呼んでくれ」
わずかに驚いたシュガーだが、すぐにニッと笑みを浮かべ、納得したように頷く。
「自立型の高性能AIか。なるほど、ハッキング出来るわけだ」
「それで、僕の力が必要なのかい?」
ニヤリと笑うピヨちゃんにシュガーも凶悪な笑みで応え、一人状況を理解出来ないソラがオドオドと一人+一体を交互に見つめる。
「新宿のビルはテロ被害軽減の為に防火シャッターと監視カメラの数が他の区に比べて多い。ポンコツ野郎は二十体。一度に相手をするには流石に骨が折れる」
「ぼくの役目は生きている監視カメラと防火シャッターを使って敵を分散させることだね。スピーカーを使って敵の注意も引こう」
「頼りになるひよこ……いやピヨちゃんか。私の無線の番号を教える。敵の位置、シャッターの開閉状況を逐一に報告してくれ」
「任せてよ!!」
すごい――ソラは数十秒にも満たない二人の会話を前にして圧倒された。シュガー達はこの絶望的な状況に屈せず、活路を見出している。ソラの中で燻ぶっていた不安は綺麗に消え去った。
「私も、協力します!!」
じっとしているのは嫌だった。少しでも力になりたかった。
「ソラはピヨちゃんの補佐をしてくれ。一匹よりもう一人いた方が心強い」
「はい!!」
頼りにされた喜び/使命感がソラを奮い立たせた。
「シュガー、監視カメラで敵の位置を確認した。既に六階まで到着している。さっきの敵が壊した防火シャッターを通っているから上手く作戦を行うならこれより上の階を使う必要がある」
シュガー達がいるのは十階、雑居ビルの最上階は十五階。十階より上は爆弾の被害もなく、ビルのセキュリティにハッキングすれば自由自在に防火シャッターも監視カメラも操れる。
だがシュガーの計算では六階分の防火シャッターだけでは二十体のパワードスーツを倒すには足りない。
「よし、ソラ達は今すぐ十五階に上がれ。私は下に降りて敵を攪乱させる。ピヨちゃんは生きている防火シャッターを動作させ、出来るだけ戦力を分散させてくれ」
「分かった、ソラ歩けるかい?」
「大丈夫」
上の階へ上っていくソラを見送った後、シュガーは風を両足に纏わせる。
うずうずと高鳴る機械の脚/速まる鼓動/戦いの気配に心地良い緊張感を覚え、シュガーは走った。
「さぁ、うずうずさせてくれよ!!」
吹き抜けのエスカレータを垂直落下し、七階でピタリと止まり、丁度七階に上がってきた十五体のパワードスーツと鉢合わせた。
「挨拶代わりだ、受け取れ」
シュガーを中心に吹き荒れる暴風にパワードスーツは豪快に吹き飛ばされ、数体がエスカレータから下階に転げ落ち、一体が吹き抜けから一階まで落下していった。
「え? 何が起こったの!?」
階段を駆け上がるソラはピヨちゃんがハッキングした監視カメラからシュガーの戦いぶりを観ていた。
何の前触れもなく吹き飛ばされるパワードスーツにソラ+ピヨちゃんは呆気にとられ、混乱した。
シュガーが何かをしたのは理解出来たが、何をしたのかは分からなかった。
『シュガー!? 君は何をしたんだ!?』
無線通信で思わず、シュガーに問い掛けるピヨちゃんは返ってきた通信に言葉を失う。
『私はフォースの使い手さ。フォースは人類が潜在的に持つ能力。魔法みたいなもんで、私は風を生み出す力を持っている』
科学の申し子であるピヨちゃんを沈黙させる一言にソラも思わず息を呑んだ。
全てが科学で説明出来る時代に置いて魔法と言う単語は酷く滑稽だったが、監視カメラ越しに観た状況を説明するには、その言葉が適切だった。
『フォース!? 魔法!? そんな馬鹿な話があるか!! ライトセーバーでも振り回すのかい!? ジェダイの騎士なんて映画の中だけで十分だよ!!』
喚き散らすピヨちゃんに対し、シュガーは落ち着きを崩さない。
『良いところ突くな。フォースの由来は映画・スターウォーズから来ているらしいぞ。何でも発見者が映画の大ファンらしい』
ケタケタと笑うシュガーに対し、ピヨちゃんは言葉を失い、回路が爆発しそうな錯覚に陥った。
『まぁ、信じられないのも無理はないが今は議論している場合じゃない。こいつらをぶっ飛ばしたら納得いくまで説明してやるよ』
風の力でパワードスーツを吹き飛ばしたシュガーは七階の奥へと駆け出す。
目の前で起きたことを信じられないピヨちゃんだが、今は自分がやるべきことを優先させる。
シュガーを追うパワードスーツの間に防火シャッターを下ろし、先頭の一体を孤立させる。続けざまにテナントの奥から流れ出すソラの声。
『こっちだよ!! さっさとかかってきなさい、このポンコツ野郎!!』
荒い言葉+大声がスピーカーから流れだし、パワードスーツは誘われるようにテナントへ侵入/掃射を行うも、そこにシュガーの姿はない。
「ナイスだ、ソラ」
背後から強襲/シュガーは出力全開+暴風を纏い、パワードスーツの操縦席を蹴り上げた。
強力な一撃は装甲を破壊し、凹んだ装甲に押しつぶされた操縦者の悲鳴がシュガーに届いた。
『これから八階、九階と敵を攪乱させるように動く。ポンコツ野郎の分散は任せたよ』
『任されたよ!!』
一枚目の防火シャッターを破り、シュガーの前に続々と現れるパワードスーツに挑発のファックサインを送り、シュガーは駆け出した。
掃射は虚しく壁を破壊/パワードスーツはシュガーを追った。
『さぁ、此処からが僕の本領発揮さ』
既にビルのセキュリティにハッキングしシステムを掌握したピヨちゃんは自らの演算能力をフルに発揮し、最良の作戦を導き出していた。
防火シャッター+スピーカーに加え、スプリンクラー+警報装置を操り、パワードスーツの集団を蜘蛛の子のように散らしていく。
その情報を受け取ったシュガーが背後/物陰から強襲。反撃の隙を与えず圧倒的な力で葬っていく。
八階+九階でパワードスーツは全て孤立し、ソラとピヨちゃんの音声に惑わされ残っているのが六体/シュガーを追って十階に上がったのが四体/残る五体は動作を停止。
『さて、十一階に上がって少しショーをお見せしよう』
『ショーだって?』
訝しがるピヨちゃんを他所にシュガーは十一階に上がり、防火シャッター開閉の指示を出す/自身は広場で仁王立ち。
防火シャッターを突破し、二体のパワードスーツが十一階に侵入/シュガーへ掃射。
一発で人体を破壊する高威力の銃弾はシュガーが作りだした風の防壁を突破出来ず、壁/床を破壊する。更に別の風が巻き起こり、圧倒的な風の力が無人のテナントを掻き乱し、蹂躙していく。
科学では証明出来ない光景にソラもピヨちゃんも唖然とした。
『とっておきをみせてやる』
シュガーの無線通信にソラ達は他のパワードスーツの監視を忘れて目の前の光景に見入った。
フロア全体を掻き乱していた暴風は瞬く間に納まり、代わりにシュガーの指先に視認出来るほど凝縮された風の塊が出来ていた。
キャンディ大の風の塊が一つ――伸ばした右の人差し指に集まり、小刻みに震え解放の時を今かと待ち望んでいるようだ。
「ヘル・シュトゥルム」
風の塊が二体のパワードスーツへ飛来/耳障りな金切り音を発生させ、高い強度を誇る鉄の装甲を容易にぶち破り、操縦席のど真ん中で爆ぜた。
圧縮された風と空気が一瞬で元に戻ろうとする力は内部から操縦者も装甲も全て粉々に破壊し、床と天井に小さなクレーターまで作った。ビル全体を揺るがす衝撃波はソラ達のいる十五階まで届き、敵以上にシュガーに恐怖を覚えた。
『どうだ、信じる気になったか、私の力を』
『し、信じるよ。うん、信じる』
震え声のピヨちゃんを他所にシュガーは満面の笑みを浮かべ、狡猾な狩人の如く敵の背後を突ける位置に移動する。
ピヨちゃんとソラの誘導で現れたパワードスーツをシュガーが背後から強襲/一撃で破壊。これで十五体の内、半数を撃破した。
擬似脳の出力は82%――残りのパワードスーツの数を考えると些か不安が残る数値。
出力が70%を下回るとフォースの威力は半減し、50%を下回ればシュガーの場合、微風程度の風しか生み出せなくなる。
大技と使ったことが多少なりとも響いており、シュガーは軽い舌打ちをする。
自分の失念――仲間のフォローはない。
ミルクもブラックもβチームも現在四十体に及ぶパワードスーツと交戦中であり、自分は単独。
普段の戦闘ならブラックの正確無比の援護射撃やミルクとの二重攻撃で圧倒出来るが、今はそれが出来ない。
ソラ達は敵の攪乱以上のことは出来ない。必然的に全てのパワードスーツをシュガーが倒さなければいけないのだが、残りの体力でそれが何処まで可能か。
撤退しようにも此処はビルの十一階。ピヨちゃんの能力を駆使すればパワードスーツの死角を突いて一階に移動出来るがビルの周りにはパワードスーツが五体控えている。
シュガー一人なら突破出来るがソラ達が一緒だとそれも難しい。万が一ソラ達が被弾し、死亡すれば助けにきた意味を失う。
現状を打破するいい案は生まれず、徐々に敵が迫ってくる。
「……らしくないな」
ガシガシと乱暴に頭を掻き、自虐的に呟いた。
シュガーのポリシー=正面突破。圧倒的な破壊力で全てを薙ぎ倒す嵐の如く突き進むことが得意中の得意。
七体のパワードスーツを撃破し、残りは八体+一階の五体。
シュガーは考えるのを止めた。凶悪な笑みが再び咲き誇り、くわえた煙草がひん曲がる。
『ピヨちゃん、これから忙しくなるぜ』
『え?』
ピヨちゃんは意味を聞く前にシュガーが敵の方へ駆け出した。孤立していたパワードスーツは数体が合流し合い、死角をカバーするように動いている。このまま戦うにはリスクが大きい。
わざと姿を晒すことで、自らの存在を存分にアピールし、撤退して孤立を誘う。
『九階から十一階を使って敵をもう一度攪乱させる。上手く防火シャッターを動かしてくれよ』
フォースは使わず、機械義足の脚力のみで三つのフロアを縦横無尽に走り抜けるシュガーの姿はまさしく嵐だった。
シュガーが敵を攪乱し、ピヨちゃんが的確なタイミングで防火シャッターを作動させ、一体ずつ確実に孤立させていき、シュガーが強襲を仕掛け、破壊する。
機械の脚とはいえ、走り続ければ体力を消耗し、出力に生身の肉体が追い付かなくなる。
此処から先は気力+体力の勝負。肉体の限界が先か、敵を全滅させるのが先か。
続けざまに二体のパワードスーツを破壊し、残り六体/三体が十階/二体が九階/一体が十一階/シュガーは九階。
完全に単独の一体の破壊を優先=全速力で十一階へ。
『シュガーさん駄目です!!』
突如響くソラの声。ほぼ同時に十階へ駆け上ったシュガーの目の前に現れた二体のパワードスーツ。榴弾の銃口がシュガーに向けられ、引金が絞られた。
着弾の刹那、前方へ風の防壁を全力で展開。衝撃と爆風を四散させるも完全に打ち消すことが出来ずに衝撃で下階へ落下/背中を強打、一瞬止まる呼吸/意識。
擬似脳が脳内物質を分泌し、一秒未満で意識が戻る。
すぐに立ち上がり、敵位置から見つからないテナントへ避難。
「くそったれ…!!」
激痛に耐え、悪態を漏らすシュガーの表情は険しく、怒涛の勢いが一気に失われる。
『シュガーさん、大丈夫ですか!?』
『まだ死んじゃないよ。だが良い状況とは言えないな』
散っていたパワードスーツが九階へとむかい、じきに六体のパワードスーツに包囲される。そうなれば今度はシュガーが蹂躙される番だ。
『残り六体。くそ、流石に数が多いか』
状況を打破する案を次から次へと考えるがどれも決定打に欠け、脳裏に浮かぶのは死んだ自分の姿。
『シュガーさん、もういいです、私達に構わず逃げて下さい。シュガーさん一人なら逃げ切れる筈です』
『馬鹿な事を言うな。ソラ達を見捨てて逃げるなんて選択肢はもとからないんだよ』
『でも!! このままじゃシュガーさんが』
震えるソラの声は自身の未熟さを痛感させ、より強い使命感を抱かせた。
『安心しろ。私は死なない、お前達を守る』
テナントから飛び出し、全身に風を纏って、一個の台風と化したシュガーはフロアを駆け、元から九階にいた二体の内、一体の裏に回り込み、渾身の一撃で装甲ごと操縦者を吹き飛ばす。
風を纏った蹴りは義足の最大出力を数倍上回る威力を発揮する一方で全身への負荷が強い/擬似脳を酷使し、出力が78%に低下/脳内で鳴り響く警告音――それがどうした。
「さぁ、かかってきな!!」
最大気迫の怒号。迫り来る機械音=パワードスーツの群れ。
守る/生きる想いがシュガーを奮い立たせ、恐怖も痛みも飲み込んだ。
風が奔る/機関銃の掃射――ぶつかり合う双方は風が圧倒的な強さで勝り、パワードスーツを薙ぎ払う。
転倒したパワードスーツへシュガーが渾身の踵落とし/装甲が凹み、肉が潰れる音+奇妙な断末魔。
転倒しながらも敵の反撃/風の防壁で防御し一旦距離を置き再度突進。
掃射を防ぎ、最大出力+風を纏った上段からの跳び蹴り/みしりと装甲が凹むが撃破には至らず/義足と肉体の接続部に走る鈍い痛み+擬似脳の出力が75%に低下。
止まぬ銃弾の嵐+榴弾の暴風にシュガーは押され始め、銃弾が少しずつシュガーに迫った。
「シュガーさん……」
助けることも共に闘うことも出来ないソラとピヨちゃんは監視カメラ越しに戦いの様子を見守ることしか出来なかった。
握り締めた拳が痛かった。観ているだけの自分が悔しかった。涙が零れた。悔しくて情けなくて、必死に戦っているシュガーに対し、逃げろなどと言った自分が許せなかった。
「頑張れ、シュガーさん!!」
吠えた。ピヨちゃんがぎょっとなってソラに向き直り、涙でくしゃくしゃになりながらも真っ直ぐにシュガーを見守るソラの瞳に圧倒された。
「頑張れ!! 負けないで!! シュガーさん!!」
その小さな身体からどうすればそこまで強く大きな声が出るのか、そう思わせる叫び声にピヨちゃんの心が震えた。今まで感じたことのない内から込み上げる熱を感じ、必死に叫ぶソラに呼応するように叫んだ。
「がんばれ、シュガー!! 負けるな!! そうだ、そこだ!! いけ、やれ!!」
二人の魂が宿った声援は確かにシュガーへと届いた。画面の向こうのシュガーがニヤリと笑い、携帯のスピーカーからシュガーの声が流れた。
『ありがとな、元気出たぜ』
直後、シュガーが纏う風が一層強くなり、長い髪が風で逆立った。
シュガーの姿が消えた。カメラで捉えきれないほどの速度で疾走し、パワードスーツに襲い掛かった。
本物の台風に比肩する威力の一撃はパワードスーツを吹き飛ばし、並んでいた隣の二体を巻き込み、ガラス張りの壁を突き破り地上へ落下/唖然とする残りの二体へ同じ一撃。
砕け散る装甲/床を転がる二体は壁に激突して止まり、燃料と血を流しながら停止した。
「勝った……?」
ピヨちゃんの呟きにシュガーは満面の笑みで応えた。
『私達の完全勝利だ』
身体も脳も酷使したシュガーはその場に大の字に倒れ、苦しそうに肩と胸を上下させる。ソラは隠れていたテナントから飛び出し、階段を駆け降りる。
「シュガーさん!! 大丈夫ですか!?」
自分の下に辿りついたソラにシュガーは親指を立てて応えた。
「少し疲れただけさ」
ソラは安堵の息を漏らし、強張っていた身体から一気に力が抜けた。
だが、安心したのも束の間、ピヨちゃんが青ざめた様子で二人に告げた。
「大変だ……!! 外にいた五体のパワードスーツがこっちにむかってくる!!」
「しまった、まだ五体いるんだった」
奥歯を噛み締め、軋む身体に鞭打ち立ち上がるシュガーだが足はふらつき、とても戦える状態ではなかった。
それでもシュガーは立った。背後にいる少女を守る為に。
ソラももう何も言わなかった。シュガーが覚悟を決めたように彼女もまた覚悟を決めた。
ハッキングした監視カメラが八階に到達したパワードスーツの姿を捉えた。
過る死の予感を振り払い、シュガーは足に力を込めた時だった。耳をつんざくプロペラ音/仲間の無線通信。
『待たせたわね、シュガー』
『来るのが遅いんだよ』
シュガーが安堵の笑みを浮かべると一発の銃声が響いた。
ヘリコプターに搭乗したブラックの正確無比の狙撃が敵パワードスーツの一体を撃ち抜いた。
更に引金を絞るブラックの横に立っていたミルクが割れたガラス張りの壁からビル内に侵入し、両腕に紅蓮の炎を灯した。
唸る炎がパワードスーツを飲み込み、必中の銃弾が穿つ。
反撃する暇すら与えず、二人は五体のパワードスーツを撃破し、二十体全てのパワードスーツは沈黙した。
その様子を観ていたソラとピヨちゃんは呆気にとられつつも言い様のない興奮を覚えた。
その隣でシュガーが楽しそうに笑い、
「これが私の仲間だ」
嬉しそうに言った。