「Action!!」

 最高に蒼い空/心地良い風/夏の生い茂る緑達/休日=絶好のドライブ日和。
 だが現実は思い通りにいかないのが常。
 夏の日差しに熱せられたアスファルト―――容赦無い照り返し。
 彼は腕組みをして白い太陽を見上げる=眩しい/当たり前。
 「おい、何か言えよ」
 彼のでないドスの効いた声。
 太陽との見つめ合いを中断/自分を囲むガラの悪い男達/やはり容赦の無い照り返し。
 何故、こうなった?
 理由=彼が特別警察官だから。
 2040年。治安が悪くなる一方の日本は一般人の中で政府の定めた適正に適合した人物を特別警察官として法律に護られた暴力行為を許していた。
 勿論、幾つか規定はある。暴力行為の自発的報告/自己防衛下での暴力行為/犯罪者に対する暴力行為/対象を殺害してはならない/一般人に暴力を行ってはいけない。
 以上の事を守れば彼の暴力行為を法律によって正当化される。
 現状―――自己防衛下での暴力行為が許される状況。
 彼は一人。
 ガラの悪い男達は六人/スキンヘッドのリーダー格と思われる男/タンクトップのオールバックの男/この暑さの中、黒いスーツをビシッと着た男/柄の悪いシャツを着た小柄な男/身長が高いだけで他に特徴の無い男/金属バットを担いだ体格の良い男。
 彼は記憶を遡る―――最近一週間、自分がぶっ飛ばした相手の顔と名前/仲間の存在。
 あぁ、と納得。
 ガラの悪い男達=二日前に拘置病院送りにした暴走族のリーゼント男の仲間。
 つまりこれは仕返し。
 特別警察官は日頃の行いの所為で犯罪者や暴力団、チンピラ、暴走族から目の仇にされている。
 特別警察官が誕生してから十年。過去に数十人、特別警察官の殉職者を出している特別警察官法。
 治安の向上に一役買っているが同時に危険な仕事でもある。
 相当の実力がなければ犯罪者を捕まえる事すら出来ないし、今の彼の様に闇討ちに遭って命を落とす事もある。
 「仲間の仇は取らせて貰うぜ」
 リーダー格の男が宣言/他の男達も臨戦態勢―――彼はやる気なし。
 折角の休日を邪魔された挙句、この場を切り抜けたら暴力行為の自発的報告をしないと違反者扱いされ、特別警察官の権限を剥奪された上に刑務所行き=最悪。
 やる気なし→やる気50%
 考えるだけ無駄―――鬱憤晴らしに全員拘置病院送り決定。
 男達が仕掛けるより先に攻撃/身長の高い男の顎に爪先がクリーンヒット=長身の男は白目を剥いて卒倒=一人目撃破。
 ざわめく男達の隙間を一瞬で縫って距離を取る彼。
 敵意剥き出しの男達は汚い意味不明の言葉を吐き散らし、襲い掛かってくる。
 彼は薄ら笑みを浮かべる=余裕。
 やる気50%→70%
 地面を蹴る/一番前のタンクトップの男がターゲット/右手を握り締め、突き出す/男の顔面が凹む/奇妙な声と音と感触が五感を通じて彼の脳に伝わる。
 拳には血―――気にせずもう一発顎にお見舞い/仕上げに腹に強烈な蹴り=二人目撃破。
 背後に居た小柄な男が一緒に倒れ、情けない悲鳴を上げる。気にせず次の獲物に牙を向ける。
 ターゲットロックオン/金属バットを持った男。
 奇声/振るわれるバット。
 彼は軽い身のこなしで金属バットを避ける/右足をそっと男の前に出す/右足に躓いてコント並みに派手にこける男。
 すかさずとどめの踵落とし/脳天に直撃/男は気絶=三人目撃破。
 やる気70%→80%=テンション上がってきた。
 今度は二人同時/右からリーダー格の男が上段蹴り/左から黒いスーツの男下段蹴り=見事な連携。
 上段蹴り―――上半身を後ろに反らせて回避/下段蹴り―――左足でガード。
 左足で黒いスーツの男の足を払い、右手でリーダー格の男の顔面に裏拳をお見舞い。
 倒れる黒いスーツの男/一瞬ふらつくが耐えるリーダー格の男/一旦距離を取る彼。
 一撃で決めるつもりだった彼は意外そうにリーダー格の男見つめる。
 鼻血を拭い、やはり意味の分からない奇声を上げて突っ込んでくるリーダー格の男。
 右手のストレート/腕を叩いて軌道を逸らす。
 左手のアッパー/上体を逸らして避ける。
 中段蹴り/腕でガード。
 全ての攻撃を防がれ、最後の手段であろうタックル/正々堂々受け止め、投げる/鉄板の様に熱いアスファルトの上に転がるリーダー格の男。
 とどめの顔面キックをお見舞い/だが寸での所で黒いスーツの男の横からのタックルによる妨害。
 予想外の攻撃。だが焦りは無い。
 黒いスーツの男の腹部に膝蹴り/顎にアッパー/とどめの顔面回し蹴り=四人目撃破。
 その隙に立ち上がったリーダー格の男と地味に生きていた小柄な男が彼を左右から囲む。
 二人は既に逃げ腰/彼のやる気80%→40%=テンション下がってきた。
 これ以上無駄な戦いを続けて貴重な休日を無駄にしたくない彼は一気に勝負に出た。
 渾身のストレートが小柄な男の鳩尾を抉った。
 吐瀉物を撒き散らし、白目を剥いて気絶する小柄な男=五人目撃破。
 残るはリーダー格の男一人―――余裕。
 我武者羅に攻撃を仕掛けるリーダー格の男だが一発も彼には当たらず、無駄に体力を消耗していくだけ。
 彼は飽きたと言わんばかりにストレートを左手で受け止める/右腕を捻り上げる/情けない男の悲鳴。
 考える。選択肢は二つ。
 腕を折って気絶させる/顔面殴って気絶させる。
 答え=両方。
 嫌な音と悲痛な叫びと共にリーダー格の男の右腕が曲がってはいけない方向に曲がる。
 右腕を離し、アスファルトの上を転げ回ろうとする男に対し、とどめの顔面ストレート。
 鼻が陥没/綺麗な放射線を描く鼻血/白目を剥いた男=六人目撃破/全滅。
 数分の戦闘で彼は一切息を乱さず、拳以外返り血も浴びていない。
 倒れている黒いスーツの男のシャツで拳の血を拭い、ジーンズのポケットから携帯端末を取り出す。
 起動ボタンを押す/空中に浮き上がるホログラム=キーボードとディスプレイ。
 コールボタンを押し、自身が所属する警察組織の担当者に繋ぐ。
 数回のコール後、聞き慣れた声。
 『またやらかしたの?』
 お決まりの『もしもし』も無しに悪態―――いつもの事なので華麗にスルー。
 「現在位置にて先週逮捕した暴走族の仲間と思われる集団に遭遇。自己防衛の為に暴力行為を行使。全六名無力化完了。直ちに救急車を手配されたし、報告終了」
 電話を終えようと切断ボタンに手を伸ばす/待ったの声/手が切断ボタンを押す直前で一時停止。
 「なんです?」
 一応返事をするがこの先何を言われるか分かっている為、かなり不機嫌そうな声だ。
 「貴方、休日の度に自己防衛下での暴力行為を行使してないかしら? 許されているとは言え、あまり感心しないわ。まるで、自分からそうなる状況に足を踏み込んでいる様に思えるわ」
 相手の顔は見えないが睨まれた様な錯覚に陥る。と言うか、間違い無く電話越しに睨んでいる。
 実の所、半分図星だった。
 勤務時間内は、大体が大物犯罪者等の逮捕や情報収集に追われ、自分が追いたい相手を追えず、ストレスが溜まる。
 溜まったストレスを解消する尤も簡単な手段=暴力。
 暴走族等が拠点としている街は把握済み。
 特別警察官は警視庁のHPであえて、顔写真付きで名前共々紹介されており、誰でも閲覧可能。
 律義な事に暴力団や暴走族は警視庁のHPにアクセスし自分達の脅威となる相手の顔を確信し、日々隙を狙っている。
 特別警察官の殉職者が多い原因である一方、他の警察官が狙われない為の対策でもある為、今の所閲覧制限等を設けるかは議論すらされていない。
 故に彼は日本で最も顔を知られた警察官の一人であり、街を歩けば十人に四人は顔をガン見してくる=いい迷惑。
 暴走族の拠点の街を歩けば、ほぼ100%、連中に声を掛けられ戦闘になる。
 自己防衛下による暴力行為の発動=ストレス発散。
 休日に毎日ストレスを発散したい訳ではないが、期待を込めて街を適当に歩く事は彼の癖でもある。
 単刀直入に指摘されたのはこれが初めて。
 目に余る行為とみなされたのか、それとも危険な行為は慎むようにとの警告なのか。
 担当者である彼女は心が読みづらい。
 常にぶっちょう面/冷たい瞳/融通の利かない性格=彼の苦手とする理想的な人物。
 「聞いているの?」
 返事が無かった事に腹を立てた彼女の怒声が鼓膜を刺激する。
 「聞いていますよ。今後気を付けます」
 次に彼女が何かを言う前の指の直ぐ先にあった切断ボタンを押す=通話終了/電話の前で怒る彼女の姿が目に浮かぶ。
 携帯端末をしまい、さてどうしたものかと彼は呟く。
 ストレスは良い感じに発散出来た。気分も上々。
 ふと、空を見上げる/最高に蒼い空/心地良い風/夏の生い茂る緑達/休日=絶好のドライブ日和。
 「何処かに出掛けるか」
 呟き、歩き出す。
 来た道を引き返し、緑で溢れていた風景が徐々に目に悪い、ネオン色に変わっていく。
 十分か、二十分歩いた時、彼の足が止まる/嫌な気配=複数/自分を囲む様に。
 やれやれとため息が漏れる。
 今度はどの組織だと記憶を探る。
 最近一週間で捕まえた犯罪者の顔と名前を思い出す。その中でこの辺りを縄張りしている組織に属していたのは例の暴走族の男を除いて一人。
 かなり勢力のでかい暴力団/囲んでいるのはその暴力団の配下の者か。
 彼が一向に動こうとしないのに痺れを切らしたのか、隠れていた暴力団の男達が蛆虫の如く建物の影から現れ、彼を取り囲む/数はざっと五十を越えていた。
 道を歩いていた一般人は慌てて逃げる/騒がしかった交差点は一気に静かになる/車さえ通らなくなる。
 不機嫌そうにため息を漏らすかと思った彼は口元に不気味な笑みを湛えていた=上機嫌。
 ドライブは中止―――代わりにゴミ掃除。
 排気ガスを撒き散らすより、よっぽど世間の為になる。
 武器は無い=拳が唯一の武器。
 気分最高/調子も最高/自然と頭の中で処刑用のBGMが流れ出す/暑さで闘争本能ゲージぶっちぎり!!
 「派手に踊ろうぜ」
 怒声/悲鳴/咆哮/血飛沫/汗の雫/遠目に集まる野次馬。
 2040年―――日本。
 毎日何処かで起きている戦いが今日はこの街で繰り広げられていた。

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