ある所に一人の少女がいました。
少女は独りでした。
親は最近死んでしまい、天涯孤独の身です。
 少女はとても幼く、お金を稼ぐ事も、狩りをして食べ物を得る事も出来ません。
 とても儚く、誰かが手を差し伸べなければ一瞬で消えてしまいそうです。
 不幸な少女に善意の手を差し伸べた一人の誰かがいました。
親を失った少女を不憫に思ったのでしょうか、毎朝、少女の家の前に一日分の食料を置いて行きました。
 少女は誰か分からない善人に感謝し、食べ物を大切に食べました。
次の日も少女の家の前に食料が置いてありました。今日は野兎まで置いてありました。
 少女はまた誰かに感謝し、食べ物を大切に食べました。
 そして、次の日も、また次の日も。
一日も欠く事無く、食料は玄関先に置かれ、少女は毎日感謝し美味しそうに食べました。
 一か月が経ちました。
今日も玄関先に食料が置かれています。
今日は少しのお米と、野菜だけでした。
 少女は呟きました。
お肉が食べたかったなぁ、と。
 残念そうな表情を浮かべ、食べ物を家の中に運び、食べました。
感謝はしませんでした。
 更に一週間が経ちました。
今日は鶏が一羽と沢山の野菜が置かれていました。
少女は喜びました。
 しかし、今日は何かがいつもと違いました。
玄関先に親指程の血溜まりが出来ていました。
少女は特に気にする事無く、鶏と野菜を抱え、今日も美味しく食べました。
感謝はしませんでした。
 更に一週間が過ぎました。
今日も家の前に食料が置かれていました。
今までで一番豪華です。
 袋一杯の穀物と沢山の野菜。野兎に鶏、そして狼が置かれていました。
 狼が置かれていたのは今日が初めてで、少女は喜びました。
 気のせいでしょうか、狼の瞳に涙が浮かんでいる様に見えますが少女は気付きません。
口から血を流し、身体のあっちこっちに刺し傷や切り傷がありますが少女は気にも止めません。
 食べ物を家の中に運び、今日も美味しく食べました。
食べきれなかった分は明日食べる事にしました。
感謝はしませんでした。
 次の日から玄関先に食料は置かれなくなりました。
一日目はあまり気にしなかった少女ですが二日目以降、不安が大きくなって行きました。
 食料には余裕がありましたがもって一週間でしょう。
無くなれば、少女は餓死してしまいます。
 少女は幼く、お金を稼ぐ術も、狩りをする術も持っていません。
 善意ある誰かが食べ物なりお金なりを恵んでくれないと少女は生きていけません。
 一週間が経ちました。
とうとう食べ物は底を尽き、一週間の間、玄関先に食料が置かれる事もありませんでした。
 少女はお腹が減って仕方ありません。
だから少女は待ちました、家の前に食べ物が置かれるのを。
 更に一週間が経ちました。
少女の手足は枯れ枝の様に痩せ細り、肋骨が浮き出ています。
 一週間、少女は水だけで過ごしました。
その間、家の前に食料が置かれる事はありませんでした。
 翌日、少女は死んでしまいました。
餓死です。
少女は最後まで食料を届けてくれていたのが誰だったのか、分かりませんでした。


 ある所に一匹の狼が居ました。
狼はとある少女に恋をしました。
少女は最近親を失い、天涯孤独の身です。
 少女は幼く、独りで生きていけません。
狼は決意しました。
影から少女を支えようと。
 その日から狼は少女の為に食料を集めました。
人里に下りて、八百屋や民家から食料を奪い、少女の家の前に置いて茂みから様子を伺いました。
 食べ物を見つけた少女は笑顔を浮かべ、狼に感謝の言葉を言いました。
しかし、少女は食べ物を届けてくれたのが狼だとも、それが盗まれたものだとも知りません。
 狼はそれでも構いませんでした。
 次の日も狼は人里に下り、食料も盗みました。
今日は森の中で仕留めた野兎も一緒に置きました。
 少女は今日も感謝の言葉を言いました。
狼は嬉しくて溜まりませんでした。
 狼は毎日毎日、名前も知らない少女の為に食料を盗み続けました。
 約一カ月が経ちました。
 狼は今日も人里に食料を盗みに行きました。
しかし、今日はいつもと様子が違いました。
 人々が武器を手に持ち、狼に襲い掛かりました。
食料を手に入れ、命辛々人里から逃げ帰りましたが怪我を負ってしまいました。
 一か月以上も盗みを働く狼に人々は遂に怒りを爆発させてしまったのです。
明日また人里に行けば襲われるでしょう。
それでも狼は盗みをやめる訳には行きません。
 狼が盗みをやめれば、少女は食べる物を失い死んでしまうからです。
 次の日も狼は人里に盗みに赴きました。
また人に襲われました。
今日は何か所も傷を負いました。
 これが毎日続けば、狼は死んでしまうでしょう。
 それでも狼はやめる事は出来ません、少女の為にも。
 一週間後、狼は全身に怪我を負いました。
食料は何とか手に入れましたが意識が朦朧とし、歩くのがやっとです。
 狼は少女の家に到着しました。
盗んだ食料を置いて、立ち去ろうとします。
 しかし、狼は食料の横に倒れてしまいました。
身体が言う事を聞きません。
血を流し過ぎたのでしょう、狼は死を待つだけの存在になってしまいました。
 狼は泣きました。
死ぬのが怖いのではありません。
自分が死んだ後の少女の未来を想い、泣いているのです。
自分が死ねば、少女は生きる術を失ってしまいます。
 狼は弱い自分を悔いながら死んでいきました。
 狼は少女に食べられました。

 狼は半月と短い間ですが、少女の血肉となって恋した相手と共に幸せに生きました。

 

 

 

 

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